【技術解説】予測不能なグルーヴの正体 – あの動画のルーパー設定、全公開
先日公開しました動画『【聴覚の実験】2つのルーパーが予測不能に絡み合うアコギ奏法』は、もう見ていただけたでしょうか。今回の記事は、その補足的な技術解説となります。
この楽曲のタイトルは「鼓動が成るまで」
鼓動が鳴るとハッピーじゃないですか?だってそれまでなかった変化が起きたわけですから。どきどき。
何が起こるだろうって。すごく楽しく幸せな瞬間です。
ですが僕がフォーカスしたかったのは鼓動が成るまで、つまり鼓動に成る過程です。
それこそ超ギャラクシーでファンタスティックでアンビリーバブルな工程を経て鼓動と成るわけですからね。
最高にハッピーですよ。そして鼓動になったら制御不能です。そこが表現できてるかな?って感じです。
YAMAHA TransAcoustic™ Guitar TAG3Cに内蔵されたルーパーと、Line 6 Helix LTのシャッフリングルーパー。この2台を使って、音が心臓の鼓動のように脈打ち始める瞬間、そして僕の手からもやがて離れていく瞬間をお楽しみください。
動画で展開される、あの奇妙で心地よい、予測不能なフレーズの波。あれがどのように構築されているのか。
結論から言うとね、あれは性格の全く違う二つのルーパーを、デジタルで同期させることなく、僕の手動によって限りなく同期に近いプレイによって実現した結果生まれた、命の芽吹きだったりします。
では、なぜ僕がこの手法を用いるのか。
その核心は**「完全なコントロールを手放し、音楽が生まれる『現象』そのものとセッションする」**という思想にあったりします。
あと現状ギター内蔵のルーパーとペダルのデジタル同期ができないってのもあったりする。
少し専門的な話をします。
■ 「鼓動」を刻むギターと、「生命」を吹き込むルーパー
今回のセットアップの心臓部は、二つのルーパーの組み合わせに尽きます。
一つは、YAMAHA TransAcoustic™ Guitar TAG3Cに内蔵されたルーパーです。
アコースティックギターそのものにルーパーが内蔵されている、という点がまず画期的です。これにより、楽曲の安定した基盤、いわば生命の源となる「鼓動」を、ギター単体で生み出すことができます。
そしてもう一つが、今回の主役であるLine 6 Helix LTに搭載された**「Shuffling Looper」**です。
このエフェクトは、録音したフレーズをそのまま再生するのではなく、設定した単位(スライス)でランダムに切り刻み、並べ替えて出力するという、極めて変則的なルーパーです。
この、規則正しい「鼓動」の上に、予測不能な「生命の息吹」を吹き込むことで、あの有機的なグルーヴが生まれます。
■ TransAcoustic™ Guitar TAG3Cのサウンドについて
今回使用したこのギターのラインサウンドは、アンダーサドルのピエゾピックアップによるものです。普段マグネットピックアップやコンタクトピエゾを使っている僕にとっては、このサウンドは新鮮で、特にリードソロでロングトーンを伸ばした時の、ツルッとしてそれでいて抜けのあるサウンドが非常にクセになります。このギター単体でループさせていっても、存在感のある良い音を鳴らせるポテンシャルがあると感じています。
ただし、アンダーサドルピックアップの特性上、ボディヒットの音を拾うことは望めません。今回の動画ではサドルの上をコツコツと叩いていますが、ご覧いただいたように、この方法であればパーカッシブな音をしっかり拾ってくれます。感覚的には、もっと鳴らせるポテンシャルがあると感じています。
■ Shuffling Looperを使いこなす、いくつかのコツ
この変則的なルーパーを使いこなすには、いくつかのパラメーターの理解が不可欠です。
- Slices(スライス): フレーズをどれだけ細かく切り刻むかを決める、音楽的な結果を大きく左右する最重要項目です。
- Smooth(スムーズ): 値を上げると、切り刻んだ断片の繋ぎ目が滑らかになります。偶発的なフレーズを「上品」に聴せるか、「下品」なノイズとして聴せるかをコントロールできます。
今回の動画では、最初のフレーズ部分でこのShuffling Looperを活用しました。具体的に行ったのは、Slicesの値を「2」に固定し、Shuffle(シャッフル)とReverse(リバース)の値は最初「0」にして原音をループさせておき、曲が大きく展開する中でエクスプレッションペダルを踏み込んでリアルタイムに可変させました。Shuffle(シャッフル)の値を0から50に、Reverse(リバース)の値を0から70にです。たったこれだけで、あの予測不能な効果が生まれたりしちゃいます。他のパラメータは全部絞ってる感じかな。あ、Smoothはいくつかに設定してたな・・・。忘れちゃった笑

■ なぜ、このような手法をとるのか
僕が今回求めた演奏では、完璧にコントロールされた音楽ではありませんでした。コントロールできない「揺らぎ」や「偶然性」と対話し、そこから生まれる奇跡的な化学反応を捉えることです。それこそが、鼓動であり、人生が送るライブ感だと考えました。
▼今回の演奏で使用した機材
- YAMAHA TransAcoustic™ Guitar TAG3C:https://amzn.to/460Y4iZ
- Line 6 Helix LT:https://amzn.to/4oOyrZZ
※上記のリンクはアフィリ-エイトリンクです。この収益は、今後の動画制作の機材費として大切に使わせていただきます。
僕がある程度の時間と試行錯誤を重ねて辿り着いた、一つの遊び方です。
「作曲がマンネリ化している」と悩むクリエイターの、何かのヒントになれば幸いです。